STAT画像報告ができるようになろう! レントゲン編<放射線診断専門医が解説!>
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はじめに
STAT画像とは、「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の所見がある画像」のことです。
近年、このような画像を診療放射線技師が速やかに報告することで、患者が早期治療を受ける機会を逸しないような体制の構築が推進されています。
本シリーズでは、診療放射線技師の皆様が自信をもってSTAT画像の報告ができるよう、実際の症例画像を交えて放射線科診断専門医がレクチャーします。
シリーズ最終回はレントゲン(一般撮影)を取り上げていきます。
STAT画像所見と、初見から想定される疾患:一般撮影
生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の画像(STAT画像)所見報告ガイドラインでは、以下のように各モダリティ・各部位について具体的に報告すべき所見が挙げられています。
本稿では一般撮影の各所見について、すなわち、
①肋間腔開大、縦郭の健側への偏位を伴う気胸:緊張性気胸
②腹腔内 free air:消化管穿孔
の2つについて解説していきます。
病歴・臨床像
今までのシリーズでも繰り返し述べているとおり、通常、検査の前には医師が診察を行い、ある程度の臨床診断や鑑別診断を想定した上で検査室へ送るのが基本的な流れです。
しかし、緊急症例では迅速な検査が優先されることがあり、また、医師が想定した疾患と異なる疾患が隠れている場合もあります。
今回取り上げるSTAT画像所見が、どのような病歴や臨床経過を伴うのかを理解しておくことで、これらの所見を見逃さずに発見する助けとなることがあります。
まず、緊張性気胸や消化管穿孔がどのような臨床像をきたすのか見ていきましょう。
緊張性気胸
緊張性気胸の症状は多様であり、初期には無症状で経過することもあります。
また、通常の気胸と区別がつかない軽度の胸痛や呼吸困難を訴えることもあります。
しかし、気胸による肺虚脱が進行すると、時間経過とともに重度の呼吸困難や頻呼吸、頻脈が出現し、血圧の低下(循環虚脱)が顕著になります。
さらに、縦隔が圧迫されることで、経静脈の怒張(上大静脈のうっ滞)や気管の健側への偏位が観察され、皮下気腫を伴うこともあります。
聴診では患側の呼吸音の消失が特徴的ですが、緊急の状況では聴診よりも視診や触診での診断が重要になる場合があります。
最終的には、静脈還流障害により心拍出量が著しく低下し、意識消失、無呼吸、徐脈を経て心停止に至り、適切な処置が行われなければ死に至ります。この進行は時に迅速であり、数分以内に発生する可能性があります。
消化管穿孔
消化管穿孔は、穿孔部位や基礎疾患により多様な症状を呈しますが、典型的には激しい腹痛で発症します。
多くの患者は、腹部に鋭い痛みを訴え、その後、急速に腹膜炎の症状が進行します。
初期には限局した腹痛として始まることもありますが、穿孔による腸内容物の腹腔内漏出に伴い、炎症が波及し、広範な腹膜炎を引き起こします。
これにより、持続的で強い腹痛、筋性防御、反跳痛(Blumberg徴候)が顕著になります。
また、腹部の膨満や消化管運動の低下により、腸雑音の減弱または消失がみられることもあります。
時間経過とともに全身状態が悪化し、発熱、頻脈、低血圧などの敗血症の徴候が出現します。
高齢者や免疫抑制状態の患者では典型的な症状が出にくく、診断が遅れるリスクがあるため注意が必要です。
放置すれば、腹膜炎の進行により敗血症性ショックや多臓器不全に至り、致死的な経過を辿ることがあります。
そのため、迅速な診断と外科的介入が必要 であり、特にショックを伴う場合は緊急手術の適応となります。
典型的な画像
緊張性気胸
重要な注意として、画像所見が実際の胸腔内圧や循環機能への障害に厳密を厳密に反映しているとは限らず、症状は急速に進行することがあるため、緊張性気胸を疑う身体所見がある場合はそちらの判断を優先すべきです。
その上で、胸膜内圧の上昇を示唆する画像所見として以下の所見が挙げられます:
健側への縦隔偏位
患側の胸郭の過膨張および肋間の開大
患側の横隔膜低位
いずれの所見も、胸腔に空気が大量に溜まった結果、胸腔を取り巻く構造が押し広げられると考えるとイメージしやすいかと思います。
では、実際の緊張性気胸の症例を見てみましょう(図1)
左肺が虚脱がみとめられ、左気胸です。
縦隔は健側(患者さんの右側)にやや偏位しており、患側の横隔膜は健側と比較すると低下していることが分かります。
肋間の開大はさほど明瞭ではありません。緊張性気胸の可能性があり、主治医への報告と患者の全身状態の慎重な観察が必要です。
消化管穿孔
腹腔内の free air を示唆する所見にはさまざまな名前のついたサインが提唱されていますが、中でも 最も有名で感度の高い 所見は、立位胸部X線で認められる横隔膜下のガス像 です。この所見を確実に認識できるようになりましょう。
free air は立位の状態では 最も高い位置 にある横隔膜下に溜まり、その結果、溜まった空気と肺の空気に横隔膜が挟まれることになり、横隔膜の輪郭が鮮明に描出 されます。これにより、X線上でも微量の free air も鋭敏に検出することが可能です。
では、実際の症例を見てみましょう(図2)
右横隔膜の下面に air が貯留していると思われる透亮像が認められ、右横隔膜の輪郭が描出されています。一見すると分かりにくい所見ですが、図1の右横隔膜と比較すると異常がわかりやすいです。
その他にも、
double wall sign
football sign
inverted V sign
etc.
など多くのサインが知られていますが、横隔膜下のガス像くらべて感度が低く、学習する優先度は高くありません。
ただ、これらのサインを学ぶと腹腔内の解剖学的構造への理解は深まりますので、興味のある方はぜひ学習してみてください。
まとめ
STAT画像診断シリーズの最終回では、胸部と腹部の一般撮影におけるSTAT所見について学びました。
今回も基礎的な内容を中心に扱いましたが、さらに深く理解を深めたい方は、研修医や放射線科医向けの専門書を参考にすると、より詳しい知識を得ることができます。
日々のトレーニングを積み重ねることで、自信を持ってSTAT画像の報告ができる力を養っていきましょう!
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