STAT画像報告ができるようになろう! CT腹部・血管編<放射線診断専門医が解説!>
- 掲載日:
はじめに
STAT画像とは、「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の所見がある画像」のことです。
近年、このような画像を診療放射線技師が速やかに報告することで、患者が早期治療を受ける機会を逸しないような体制の構築が推進されています。
本シリーズでは、診療放射線技師の方向けに、自信をもってSTAT画像の報告ができるよう、実際の症例画像を交えて放射線科診断専門医がレクチャーします。
シリーズ第3回目は腹部・血管CTを取り上げていきます。
STAT画像所見と、所見から想定される疾患:腹部・血管CT
「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の画像(STAT画像)所見報告ガイドライン」では、診療放射線技師が発見した場合に報告すべきSTAT画像所見が(表1)のように定められています。
(表1)臨床検査技師が発見した場合に報告すべきSTAT画像所見と想定されるい疾患一覧。
腹部CTでは、 ”腹腔内 free air” = 消化管穿孔、 ”腸管のair-fluid level形成・腸管拡張” = 腸閉塞/イレウス、 ”腹部の出血” = 肝癌破裂、内臓動脈瘤破裂、異所性妊娠や交通外傷などによる腹腔内出血 血管CTでは、 ”径6cm以上の上行大動脈、径7cm以上の下行大動脈、径5.5cm以上の腹部大動脈”=破裂のリスクが高い大動脈瘤 が挙げられています。
病歴・臨床像
シリーズ1・2回目でも述べましたが、通常、CT検査の前には医師が診察を行い、ある程度の臨床診断や鑑別診断を想定した上で検査室へ送るのが基本的な流れです。
しかし、緊急症例では迅速な検査が優先されることがあり、また、医師が想定した疾患と異なる疾患が隠れている場合もあります。
今回取り上げるSTAT画像所見が、どのような病歴や臨床経過を伴うのかを理解しておくことで、これらの所見を見逃さずに発見する助けとなるかもしれません。
消化管穿孔
消化管穿孔とは、胃や腸といった消化管に内容物が腹腔内に漏れ出る状態です。典型的な症状は激しい腹痛で、特に胃潰瘍や十二指腸潰瘍による穿孔では鋭い痛みを訴えます。
その後、漏れ出た内容物が腹膜を刺激しすることで炎症が進行し(腹膜炎)、腹部全体に強い痛みが広がるとともに、筋性防御(お腹が固くなる現象)がみられます。
また、発症から時間が経ち炎症や感染が増悪すると、発熱や頻脈がみられます。
腸閉塞/イレウス
腸閉塞・イレウスとは、腸管の内容物の流れが妨げられる状態です。典型的な症状は腹痛や腹部膨満で、嘔吐や排便の停止も見られることがあります。
腸閉塞とイレウスの違いは腸管の機械的な閉塞の有無で、前者は機械的閉塞があり、後者は機械的閉塞はありませんが腸管の麻痺により内容物の通過が妨げられます。
多くの場合、食後に腹部の不快感が徐々に増し、波のように繰り返す腹痛(疝痛:周期的な痛み)が特徴的です。
腹腔内出血
腹腔内出血とは、その名の通り腹腔内に出血が生じる病態で、腹痛や腹部膨満、ショック症状が見られることがあります。
発症初期の出血が少ない段階では自覚症状がない場合がありますが、出血量が多くなってくると血圧低下や頻脈といった循環不全の兆候がみられてきます。
出血の原因となった疾患によっては急速にショックが進行する可能性があり、注意して状態を観察しましょう。
大動脈瘤
大動脈瘤とは、大動脈瘤の一部が異常に膨らむ疾患で、破裂すると致命的な出血を引き起こします。
多くの場合、無症状のままに進行するため、上記に取り上げた今回取り上げた他の疾患と異なり、偶発的に見つかることが多いです。
ただし、大動脈が破裂寸前の状態(切迫破裂)では、胸部や腹部など大動脈瘤が存在する部位に痛みが生じることがあります。
頭部CTのSTAT画像所見の典型例
STAT画像診断シリーズでは毎回強調していますが、まずは正常な画像をしっかり覚えることが重要です。
正常な画像が頭に入っていると異常な初見も見つけやすくなるので、普段から意識して画像を確認する習慣をつけましょう。
それでは、CT腹部・血管CTのSTAT画像所見の典型例を見ていきましょう。
腹腔内 free air
肝臓の前面に free air (矢印)を認め、消化管穿孔が疑われます。
腸管の air-fluid level 形成・腸管拡張
拡張した小腸と腸管内の air-fluid level (矢印)を認めます。小腸イレウス/小腸閉塞が疑われます。
腹部の出血
腹腔内に多量の液体貯留(矢印)を認めます。水よりCT値が高く、腹腔内出血が疑われます。
”径6cm以上の上行大動脈、径7cm以上の下行大動脈、径5.5cm以上の腹部大動脈”
大動脈弓部に7cmを超える拡張(矢印)を認めます。破裂リスクの高い胸部大動脈瘤です。
STAT画像所見を見落とさないために
腹腔内 free air
free air を見落とさないコツとして、①適切なウィンドウ設定を行うこと、②airが溜まりやすい場所を覚えること理解することが挙げられます。
①適切なウィンドウ設定について
free air はCT値が非常に低いため、広いウィンドウ幅・低いウィンドウレベルに設定します。
そうすることによって、airと周囲の組織のコントラストが明確になり、見つけやすくなります。
②airが溜まりやすい場所を覚える。
原則として、軽いairは肝臓前面など腹腔内の高い部分に集まります。特に上部消化管穿孔ではこのような傾向がよくみられます。
しかし、下部消化管穿孔では穿孔部位周囲にairが限局している場合もしばしばあるので、下部に関しては腸管周囲をよく観察することが大事です。
デフォルトのウィンドウ幅・ウィンドウレベルで表示した画像です。腹腔内 free air がありますが周囲の組織のコントラストが弱く、見つけるのは困難です。
図5のウィンドウ幅とウィンドウレベルを調整した画像です。airと脂肪のコントラストがつき、はっきりとわかるようになりました(矢印)
腸管のair-fluid level形成・腸管拡張
こちらの所見は比較的一目瞭然であることが多いので、見落としは少ないかもしれません。
小腸が大きく拡張することは通常ないので、小腸のひだ(Kerkringひだ)が目立っている場合は注意してください。
拡張した腸管を認め、細かいひだ(Kerkringひだ)があるので小腸だとわかります。
小腸イレウス/小腸閉塞が疑われます。
腹部の出血
以下に挙げる部位は腹腔内で低い位置にあたり、腹腔内出血や腹水が溜まりやすい部位となります。
従って、まずはこれらの部位を重点的に観察すると良いでしょう。
モリソン窩(肝腎窩)
肝臓と右腎臓の間(モリソン窩:矢印)に液体貯留を認めます。
脾臓周囲
脾臓の周囲(矢印)に液体貯留を認めます。
ダグラス窩・直腸膀胱窩
子宮と直腸の間(ダグラス窩:矢印)に液体貯留を認めます。
腹腔内出血は出血直後はCT値が高く、時間経過とともにCT値が低下していきます。
周囲の組織とのコントラストが曖昧になったり、腹水と紛らわしい場合があるので、それぞれ造影と非造影の画像を見比べたり、CT値を測定して鑑別を行うと良いです。
径6cm以上の上行大動脈、径7cm以上の下行大動脈、径5.5cm以上の腹部大動脈
大動脈瘤は一目瞭然なことが多く、見落としは少ないと思われます。
まとめ
本記事では、腹部および血管CTのSTAT画像所見について解説しました。
今回は入門的な内容を扱いましたが、さらに深く学びたい方は、研修医や放射線科医向けの専門書を読むことで、より詳しい知識を得ることができます。
適切な画像診断を通じて患者さんの予後を改善できる経験は、非常に貴重なものです。ぜひ機会を逃さないよう、日々のトレーニングに取り組んでみてください。