STAT画像報告ができるようになろう! CT頭部・胸部編 <放射線診断専門医が解説!>

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はじめに

STAT画像とは、「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の所見がある画像」のことです。

 

近年、このような画像を診療放射線技師が速やかに報告することで、患者が早期治療を受ける機会を逸しないような体制の構築が推進されています。

 

本シリーズでは、診療放射線技師の方向けに、自信をもってSTAT画像の報告ができるよう、実際の症例画像を交えて放射線科診断専門医がレクチャーします。

 

シリーズ第二回目は頭部・胸部CTを取り上げていきます。

 

STAT画像所見と、所見から想定される疾患:頭部・胸部CT

「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の画像(STAT画像)所見報告ガイドライン」では、診療放射線技師が発見した場合に報告すべきSTAT画像所見が(表1)のように定められています。

(表1)

 

 

頭部CTでは、”頭蓋内出血”=脳内出血・くも膜下出血・硬膜下血腫・硬膜外血種、”脳の腫瘤”、胸部CTでは”肋間腔開大、縦隔の偏位を伴う気胸”=緊張性気胸が挙げられています。

 

 

病歴・臨床像

一般的にはCT検査の前に医師が診察を行い、ある程度臨床診断や鑑別が想定された状態で検査室に来るという流れが原則です。

 

しかし、緊急症例のため速やかな検査が優先される場合や、挙げられている疾患を医師が想定していない場合もあります。

 

今回取り上げるSTAT画像所見がどのような病歴・臨床像を持つのか理解しておくと、STAT画像所見を発見する助けになる可能性があります。

 

 

頭蓋内出血

脳内出血は、出血が生じる部位によって症状が異なります。例として、麻痺・感覚障害、意識障害、めまい・ふらつきなどの症状が挙げられます。

 

くも膜下出血であれば突然の激しい頭痛が特徴的です。また、意識障害を生じることもあります。

 

硬膜下血腫・硬膜外血種は通常頭部外傷の病歴が有ります。また、脳の圧迫が強くなると意識障害や麻痺、呼吸の異常などが生じることもあります。

 

 

脳腫瘍

脳腫瘍で生じる症状は、腫瘍が生じた部分の脳が障害されることによる症状と、腫瘍によって頭蓋内圧が高まるためにおこる症状に分けられます。

 

前者は部位によってさまざまですが、麻痺・感覚障害、言語障害などが例として挙げられます。後者は頭痛、吐き気、意識障害などが生じます。

 

 

緊張性気胸

緊張性気胸の症状は幅があり、初期は無症状だったり、通常の気胸と変わらない症状を示します。

 

時間経過とともに、重度の呼吸困難、血圧の低下などの症状が生じ、経静脈の怒張や気管の偏位などが観察されるようになります。

 

最終的には、静脈還流障害により心停止に至り死亡しますが、これは数分以内に起こる可能性があり、特に陽圧換気中の患者では急速に進行します。

 

検査中に急変をきたす可能性もあるので、患者の状態に注意を払いながら検査を実施しましょう。

 

 

頭部CTのSTAT画像所見の典型例

STAT画像診断シリーズでは毎回強調しますが、まず正常画像をきちんと覚えることが重要です。

 

正常画像が頭に入っていることによって、異常に気付きやすくなります。普段から意識して画像を見るようにしましょう。

 

では、頭部・胸部CTのSTAT画像所見の典型例を見ていきましょう。

 

 

頭蓋内出血

脳内出血

(図1)

左被殻に27mm大の高吸収域を認め、被殻出血の所見です。

 

くも膜下出血

(図2)

脳底槽、両側のシルビウス谷、迂回槽が高吸収となっています。くも膜下出血の所見です。

 

硬膜下血腫

(図3)

左側の頭蓋内に三日月状の形をした血腫を認め、頭蓋骨の縫合をこえて血腫が広がっています。硬膜下血腫の所見です。

 

硬膜外血種

(図4)

右側の頭蓋内にレンズ状の形をした血腫を認め、骨条件では側頭骨の骨折も伴っていました。硬膜外血種の所見です。

 

 

脳の腫瘤

脳腫瘍

(図5)

左の側頭葉に25mm大の腫瘤を認め、周囲の脳実質に浮腫を認めます。脳腫瘍の所見です。

 

 

肋間腔拡大、縦隔の偏位を伴う気胸

緊張性気胸

(図6)

右側に高度の気胸を認め、右肺は虚脱しています。縦隔は健側に偏位しており、肋間腔の開大も認められます。緊張性気胸を疑う所見です。

 

 

STAT画像所見を見落とさないために

頭蓋内出血

頭蓋内出血の中でも特に見落としやすいのが、くも膜下出血です。

 

しかも、くも膜下出血は発症してから24時間以内に再出血を起こしやすいと言われており、再出血を起こした場合の予後は初回の出血より悪化します。

 

従って、くも膜下出血を見落としなく見つけるのは重要です。くも膜下出血を見つけるポイントを学んでいきましょう。

 

 

  • ”白い部分”だけを探さないようにする。

出血が少量だったり、貧血の場合は必ずしも、くも膜下腔が”白く”なるとは限りません。

本来”黒い”はずのくも膜下腔が”黒くない”状態も異常所見です。

このような場合、反対側と比較して脳溝が不明瞭、といった形で認知されることがあります。

 

(図7)

右側の脳溝が反対側と比較して不明瞭化しています。くも膜下出血が疑われる所見です。

 

 

  • 左右を比較する。

上記の図7の症例のように、所見がほんの僅かにしか現れない場合があります。

わずかな異常を見逃さないため、違和感を感じたときは左右で比較してみる習慣をつけると良いでしょう。

 

 

  • 確認する場所を決める。

なんとなく画像を見ていると、確認漏れが発生することが有ります。

くも膜下槽の解剖を覚え、自分の中で順番を決めて毎回それに従って順番に確認していくことによりそのようなミスを予防することができます。

下の図に示したくも膜下槽の他、脳溝にも出血が見られないか頭頂部まできちんと確認しましょう。

 

(図8)

 

(図9

 

脳の腫瘍

時として脳を対象としていない検査でも小脳腫瘍が写りこむ例があります。

 

肺がんや乳がんなど、脳転移を生じやすい癌患者の体幹部撮影では、脳転移が映り込んでいないか探してみましょう。

 

体幹部のCTは脳と比較してウィンドウ幅が広く設定されており、ウィンドウ幅を調整することによる腫瘍を見つけやすくなる可能性があります。

 

また、脳腫瘍周囲の脳実質の浮腫が手掛かりになる場合があります。不自然な脳の浮腫を見つけたときは内部に腫瘍性病変が無いか探してみるようにしましょう。

(図10)

やや分かりにくいですが小脳の正中部に腫瘤を認めます。肺がん患者の体幹部撮影の際、偶然写りこんだ小脳転移の症例です。

 

緊張性気胸

CTでは気胸を見落とす可能性はかなり低いと思われます。

 

緊張性気胸とそうでない気胸の鑑別に関しては、画像所見が症状の重さと一致しない場合があるため総合的な判断が求められます。

 

緊張性気胸は病態が急速に悪化するため、疑ったらすぐ医師に報告しましょう。

 

 

まとめ

この記事では、頭部および胸部CTのSTAT画像所見について取り上げました。

 

本稿で扱った内容は入門編のため、興味が湧いた方は研修医~放射線科医向けの書籍を読むと、より深い知識を身に着けることができます。

 

適切な報告により患者さんの予後が改善する経験はとても素晴らしいものです。チャンスを見逃さないよう、ぜひトレーニングを積んでみてください。

 

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