STAT画像報告ができるようになろう! MRI編 <放射線診断専門医が解説!>

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はじめに

STAT画像とは、「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の所見がある画像」のことです。

 

近年、このような画像を診療放射線技師が速やかに報告することで、患者が早期治療を受ける機会を逸しないような体制の構築が推進されています。

 

本シリーズでは、診療放射線技師の方向けに、自信をもってSTAT画像の報告ができるよう、実際の症例画像を交えて放射線科診断専門医がレクチャーします。

 

シリーズ第一回目は頭部MRIを取り上げていきます。

 

 

STAT画像所見と、所見から想定される疾患:MRI

「生命予後にかかわる緊急性の高い疾患の画像(STAT画像)所見報告ガイドライン」では、診療放射線技師が発見した場合に報告すべきSTAT画像所見が以下の表のように定められています。

 

MRIに関しては、頭部の画像での”拡散強調画像での異常高信号域”と”脳外の異常信号域”の2つの所見が挙げられています。

 

また、これらの所見から想定される疾患として、”拡散強調画像での異常高信号域”は脳梗塞、脳炎・脳症や脱髄疾患が挙げられています。

 

”脳外の異常信号域”は言葉だけでは分かりにくいですが、くも膜下出血・硬膜下血腫・硬膜外血種が挙げられており、主に頭蓋内出血を想定したものであるという事が分かります。

 

病歴・臨床像

一般的には、MRI検査の前に医師が診察を行い、ある程度の臨床診断や鑑別が想定された状態で検査室に来るという流れが原則です。

 

しかし、緊急症例においては十分な診察をする余裕が無い場合もしばしばあるため、今回取り上げるSTAT画像所見を示す疾患がどのような病歴・症状で来やすいのか覚えておくと、診断の役に立つ可能性があります。

 

 

脳梗塞、脳炎、脱髄疾患

障害される部位によって症状が異なり、脳梗塞では顔面や四肢の麻痺、視野障害、感覚障害、失語、構音障害、半側空間無視、意識障害などを生じます。
また、脳炎や急性の脱髄疾患であれば発熱、頭痛、嘔気・嘔吐なども生じることがあります。

 

くも膜下出血・硬膜下血腫・硬膜外血種

くも膜下出血であれば突然の激しい頭痛が特徴的です。また、意識障害を生じることもあります。
硬膜下血腫・硬膜外血種は通常頭部外傷の病歴が有ります。また、脳の圧迫が強くなると意識障害や麻痺、呼吸の異常などが生じることもあります。

 

 

頭部MRIのSTAT画像所見の典型例

初めに強調したいのは、まず正常画像をきちんと覚えていることが重要という事です。
正常画像をよく理解していることで、そうでない画像を見たときに異常を認識しやすくなるので、意識して普段から画像をされることをお勧めいたします。

 

では、実際に頭部MRIのSTAT画像を見ていきましょう。

 

 

拡散強調画像での異常信号域

脳梗塞

 (図1)

右の内包後脚に拡散強調画像で異常な高信号が認められ、新しい脳梗塞が疑われる所見です。また、ADCmapでADC低下がある事も確認することで、より脳梗塞であることの確信度が上がります。

 

 

脳炎 単純ヘルペス脳炎

      (図2)

拡散強調画像にて右側頭葉に異常な高信号が認められます。単純ヘルペス脳炎が疑われる所見です。その他にも、前頭葉、帯状回、当皮質、角回などにも所見が見られることがあります。

 

 

脱髄疾患  浸透圧性脱髄症候群

     (図3)

拡散強調画像にて橋の中心部に異常な高信号が認められ、橋は全体的に腫大しています。浸透圧性脱髄疾患を疑う所見です。

 

 

脳外の異常信号域

くも膜下出血

    (図4)

FLAIRにて左頭頂部に脳溝まで入り込む高信号が認められます。くも膜下出血の所見です。

 

※くも膜下出血以外でくも膜下腔が高信号を呈する病態
くも膜下出血は微細な所見を見つけなければいけないため、時としてあたかもくも膜下出血のように見える別の病態に悩まされることがあります。
最終的な判断は医師が下せばよいので報告はためらわないで頂きたいですが、以下のような場合にくも膜下腔が高信号をきたし得る事は頭の片隅に入れておいても良いと思います。

  • 高濃度酸素投与
  • Gd造影剤投与
  • アーチファクト(髄液流や拍動などによる)

 

 

   (図5)

FLAIRにて両側の頭頂部の濃厚に高信号を認めます。高濃度酸素が投与されており、くも膜下症状を疑う病歴や症状が無いことやその後の経過から高濃度酸素による所見と診断されました。

 

 

硬膜下血腫

    (図6)

FLAIRにて右後頭葉周囲に高信号が認められます。硬膜下血腫の所見です。後述の硬膜外血種との鑑別が問題となることがありますが、頭蓋骨の縫合線を越えて進展することが特徴です。

 

 

硬膜外血種

  (図7)

FLAIRにて左後頭部に凸レンズ状の高吸収域を認め、硬膜外血種の所見です。血腫が凸レンズ型を呈することが多いですが、硬膜下血腫でも似たような形状になることはあるため形状のみで厳密な鑑別は出来ません。頭蓋骨の縫合線を越えて進展しない点が、硬膜下血腫とは異なる部分です。

 

 

STAT画像所見を見落とさないために

拡散強調画像での異常信号域

・見落としやすい場所

MRIでの大脳の異常信号は比較的見落としが少ないですが、脳幹部や小脳の梗塞は撮像範囲の端に近いことや、所見が小さい場合がある事から、比較的見落としが発生しやすい印象があります。

明確な見落としへの対策はありませんが、なんとなく全体を眺めるのではなく、自分の中で観察する部位と順番を決めて画像を見るのは有効です(例:大脳→中脳→橋→延髄→小脳…)

 

 

   (図8)

拡散強調画像にて脳幹部の右側に高信号が認められ、脳梗塞と思われます。

 

 

脳外の異常信号域

  • どのシーケンスで観察するか?

まずはFLAIRで所見を探すのがお勧めです。また、T2*強調画像や磁化率強調画像も微小な出血を鋭敏にとらえることができるため、適宜組み合わせて観察します。

 

  • どの部分を注目して観察すれば良いか。

くも膜下出血はその名の通りくも膜下腔に出血する病態なので、くも膜下腔の広がりを覚えてその部分を観察するようにしましょう。

 

     大脳谷槽(シルビウス谷)

脳底槽

脚間槽

迂回槽

(図9)

 

 

前大脳縦裂

シルビウス裂

 

 

 

(図10)

 

硬膜下血腫・硬膜外血種はくも膜下出血と比較すると病変が分かりやすいので、病変の発見に苦労することは少ないかもしれません。但し、スライス面と平行な血腫は不明瞭となる場合があるので、冠状断像や矢状断像も撮像した場合はこれらもあわせて観察しましょう。

 

 

まとめ

この記事では頭部MRIのSTAT画像について取り上げました。

 

本稿で扱った内容は入門編のため、興味が湧いた方は研修医~放射線科医向けの書籍を読むと、より深い知識を身に着けることができます。

 

適切な報告により患者さんの予後が改善する経験はとても素晴らしいものです。チャンスを見逃さないよう、ぜひトレーニングを積んでみてください。

 

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